旅の終わり、映画のはじまり

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『キングスマン ファーストエージェント』

 

 面白かったのだが、思っていたのと違った。

 

 本作は現実の第一次世界大戦を題材にしているため当たり前といえばそうなのだが、この映画はキングスマンというシリーズの過去のテイストとはかなり異なっており、リアルな反戦映画に仕上がっている。塹壕から兵士が突撃して全員があっけなく秒殺される描写は乾いた演出で不気味だったし、レイフ・ファインズの息子の上官が目の前で銃殺されるナイトシーンは物凄く臨場感があった。同じく第一次世界大戦を描いた『1917』と比べても遜色ないどころか、同作が疑似ワンカットとロジャー・ディーキンスの撮影により幻想的な仕上がりになっている分、キングスマン ファーストエージェントのほうが臨場感や生々しさという点では勝ってさえいるのである。それほど戦争映画・反戦映画としてのクオリティは高い。

 本作を理解するために予習をするのであれば、過去のキングスマン2作ではなく、『1917』もしくはピーター・ジャクソン監督の『they shall not grow old』を薦めたい。のちの世から見れば悲惨極まりないこの戦争に、レイフ・ファインズの息子はなぜ進んで参加していくのか、そして戦争の実態がどうであったのか、理解が深まることと思う。

 補足として、日本ではあまり有名ではないと思うが、本作には実在したイギリスの軍人のキッチナーという人物が登場する。演じているのがGOTの悪役タイウィン・ラニスターで有名なチャールズ・ダンスなので、キッチナーを悪役と勘違いしてしまったが、この人物はイギリスの英雄であって本作の悪役ではない。それを知ってみると話がより理解しやすいと思う。

 思っていたのと違った点は、荒唐無稽なガジェットや悪趣味なギャグといった前2作のチャーミングな部分が殆どなかったことだ。ラスプーチンとの戦闘の場面はそれに近かったのだがそれも中盤で終わってしまうため、キングスマンのテンションで劇場に足を運んだ割になんだか重いものを見せられたな、という印象はどうして残った。

 エンタメとして致命的だなと思ったのはラスプーチンレーニンヒトラーを操る黒幕に大物感が全く感じられなかったこと。スパイ映画との比較でいえば007のスペクターは手下が全員無名だから成り立つが、本作の場合は世界史の超有名どころが手下なので、黒幕の見せ方に工夫が必要だったと思う。なんなら正体を見せないとか、だれが黒幕なのか分からない名探偵コナン方式でもよかったはずである。

 ラストにヒトラーが登場し続編を匂わせていたが、題材的にいよいよシリアスにならざるを得ず、果たしてこのシリーズでそれをやる意味があるのかという疑問はやはりぬぐえない。