旅の終わり、映画のはじまり

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『ラストナイト・イン・ソーホー』絢爛で淫らな街に描いた、歪な魅力

今回紹介する映画はエドガー・ライト監督最新作『ラストナイト・イン・ソーホー』

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エドガー・ライト監督

 エドガー・ライト監督はイギリス出身の男性映画監督。

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 サイモン・ペッグニック・フロストのコンビで『ホットファズ』『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』などオタクな主人公たちが大活躍する映画を作ってきた監督。直近ではアンセル・エルゴートを主演の『ベイビー・ドライバー』で大きな注目を集めました。

 この監督の作風の特徴は、ひとつの映画の中に複数のジャンル映画の要素を同居させるのが上手ということです。

 たとえば『ホットファズ』ではコメディー×サスペンス×ホラー×アクション。『ベイビードライバー』ではノワール(犯罪映画)×カーアクション×ミュージカル。

 もう一つの特徴は主人公に対しても悪役に対しても目線が優しく、どんな話であっても緊張感よりは居心地の良さを感じさせる作風であるということです。

 

 本作『ラストナイト・イン・ソーホー』では果たして・・・?

主演のひとり トーマシン・マッケンジー

 ダブル主演の一人目はニュージーランド出身のトーマシン・マッケンジー

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 『Leave No Trace 足跡はかき消して』という映画で戦争のPTSDに苦しみ山に引きこもって暮らす父と懸命に生きる娘のトムを演じて世界的に注目された女優さんです(この作品はアマゾンでレンタルできます)。

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 その後、タイカ・ワイティティ監督の『ジョジョ・ラビット』で囚われたユダヤ人の少女役を演じて一躍トップスターの仲間入り。

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 ギリシャ彫刻に命を吹き込んだようなウルトラ正統派美人で、演技力も素晴らしいです。額が広く知的で聡明な雰囲気があります。目がぱっちりしていてとても大きく、めちゃくちゃキュートでもあります。生きているのに瞳孔が開きすぎているように見える時があり、それがこの世のものではないような神々しさ、あるいは若干のサイコっぽさを醸し出すときもあります。(筆者はいまこの女優さんが一番のお気に入りです)

もうひとりの主演 アニャ・テイラー・ジョイ

 ダブル主演の二人目はアニャ・テイラー・ジョイ。Netflixの『クイーンズ・ギャンビット』で世界的に人気のある女優さんです。

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 彼女の特徴はその目力と豹などの猛禽類を思わせる野性的なセクシーさであると思います。額が狭く、その割に目が大きすぎて顔の半分が目でできているような印象があります。トーマシン・マッケンジーが古典的な正統派美人とするなら、アニャ・テイラー・ジョイはかなり現代的な美人の女優さんといえると思います。

本作の舞台 1960年代イギリスの文化

 大ヒットドラマ『ダウントンアビー』でも描かれるようにそれ以前のイギリスの社会は抑圧的な階級社会でした。

 しかし第二次世界大戦後の急激な経済発展と資本主義の大量消費文化の影響を受け、1960年代には社会の規制の価値観を打ち破る、革命のスピリットを持った若者文化が爆発することになります。

 そんななか、イギリスのロンドンは「スウィンギング・ロンドン」として音楽やファッションなど世界の若者文化のメッカの一つになっていきました。それらは現代の我々にも影響を与えているものが多く、一番有名なところではビートルズ。そしてジェイムズ・ボンド。ミニスカートなどもこの時期に登場しています。

 同時に文化的な爆発は男女ともに性の解放や、ドラッグの普及などにも絡んできており、本作は当時の若者文化をどのように描くのでしょうか・・・?

本作で使われる1960年代の音楽たち

 1960年代のイギリスのPOPSが流れまくる本作。一番の有名どころは予告編でも使われている「Downtown」でしょうか(アニャ・テイラー・ジョイは歌もいいですね)

 

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  この時代の音楽はとにかくメロディがキャッチーで歌詞もシンプルで分かりやすい。聞きやすいけど、どこか切なさや寂しさを漂わせているのが大きな特徴かと思います。映画評論家の町山さんがプレイリストを作ってくださっていてありがたいです。

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観る前の注意点

光の点滅

 本作は光の点滅などにより光に敏感な体質の方は注意が必要です。上映前に警告が流れるのですが、着席して上映が始まるタイミングで警告を流しても遅いのでは?と思いました。

性暴力描写

本作にははっきりと性暴力描写が出てきますので、苦手な方は避けた方が良いかもしれません。

 

 監督紹介のパートで「ひとつの映画の中に複数のジャンル映画の要素を同居させるのが上手」と述べましたが、本作はミュージカル×青春映画×ニューロスリラー×サスペンス かと思いました。

感想

 

 公開二日目に見に行きましたが都内の劇場は満席でした。

 

 本作の魅力はいろいろな要素で語ることができると思います。それはファッションであったり音楽であったり、それぞれが思い入れているものによって変わってくるのが自然なのでしょう。

 私にとっての本作の魅力は主演女優二人、特にエロイーズを演じるトーマシン・マッケンジーの熱演をずっと見ていられることでした。冒頭のダンスのシーンはカメラがかなり近く、まるで3DのVR。超至近距離で彼女を観ているような、本当にエロチックな撮影だと思いました。

 その後も監督はトーマシン・マッケンジーの衣装、髪型、表情をどんどん変化させていきます。彼女の魅力を余すところなく撮りたい、という欲望がスクリーンから駄々洩れのように感じました。当初はエロイーズを演じる予定だったアニャ・テイラー・ジョイを含めて、ほかのキャストのルックスがそこまで変化しないのとは対照的です。

 本作は「1960年代の女性の解放の裏にあった女性の搾取と向き合って、女性の搾取構造を打破する」というテーマとは裏腹に、トーマシン・マッケンジーの魅力にエドガー・ライト監督自身が圧倒されて引きずり倒されてしまった結果、監督自身が「顔の消された男たち」になってしまいかねないギリギリのラインで作られた、かなりいびつな作品になったと思います。

 冒頭に主人公が幻覚を見ることが普通のこととして描かれており、ホラー映画としてはたいして怖くありません。

 露骨な性暴力描写は性的に消費されうるバランスで作られており(ここは『プロミシング・ヤング・ウーマン』と全然違う)、それ以外にも主人公と付き合うのが監督の過去作に出てきそうな冴えない優しいだけの男であるところなど、あくまでオタク、ナード的男性目線の強い作品であり、フェミニズム映画としても微妙です。

 

 それでも自分はこの作品が大好きです。主演二人の魅力と熱演、極力CGを使わない撮影など非常に見どころの多い作品であることは間違いありません。メイキング映像ではダンスシーンの練習風景などが見られますが、かなりがんばってアナログな撮影手法を取り入れています。

 

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 褒めていいところばかりでないのは前述の通りなのですが、それでもこの作品には魅力が詰まっており、エドガー・ライト監督には「ありがとう」と言いたいです。

 それにしても、憧憬の対象に近づき過ぎることで見る・見られる関係が逆転し、ましてそれに殺されそうになるなんて、いやはや身につまされる話です。

 

参考文献

・劇場パンフレット

 

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