旅の終わり、映画のはじまり

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『キャシアン・アンドー』第一話~第三話感想

 Disney+ で配信が開始されたSTARWARSスピンオフドラマの感想と、今後期待することについて。

disneyplus.disney.co.jp

 

・全体的には、賛否で言えば賛、です。

・かなり話のペースがスロー。加えて、本作のSW世界での時系列的位置づけや、アンドーが何者であるかなど、初心者向けの説明は一切ありません。自分のような長年のSWファン向けの、かなりハイコンテクストな作品であるという印象です。

・三話までの時点でアンドーのキャラクター造形は、飲み屋でお巡りさんに絡まれてうっかり相手を殺してしまう間抜けさ・起用でないところと、スカルスガルドからスカウトされる程の有能さ、という相反する要素が描かれており、ちょっと描写が錯綜しているというか、なんだかうまくいっていないように感じました(観客が彼をもともと知っているという事実に依存しすぎている)。特に冒頭の殺人エピソードはあまりにも「話の転がりのためのエピソードです」感が強く、できれば後の展開でなにか、ひとひねり欲しいところです。

・また、アンドーの友人でありながら彼に嫉妬もしているティムおじさんが悲劇的な最期を遂げますが、正直彼にはまだそこまで感情移入できていないし、なんなら最後の撃たれる場面は警備員の再三の警告を無視してのうえのことなので「そりゃそうなるわな」という感じで、なんの感情も起きませんでした。「オビ・ワン・ケノービ」の時も思いましたが、ぽっと出のキャラクターが死んでも観客の感情はそう簡単には動かない、ということをディズニーは学んでほしいなと思いました。

・アンドーの出身惑星のケナーリですが「なぜ子供しかいないのか」「何を採掘するための鉱山なのか」など謎が多く、今後明かされていくのか、それとも放置されるのか気になります。子供しかいない理由については「大人は鉱山で奴隷のように働かされて死亡した」とかかも知れませんが、現実世界には児童労働や児童の性的搾取という問題があるので、子供には手を出さないのだとすると、帝国の邪悪さを弱く感じてしまいますし、どういう説明になるのか楽しみです。

 鉱山で何が掘り出されているのかですが、カイバークリスタルなのかヴェスカーなのか、あるいはもっとほかの何かなのか、ファンの皆様はどう思われますでしょうか。

 また「アンドーはなぜ妹を平気で置いていき、今頃になって探しているのか?」「なぜ子供たちの武器がそろいもそろって吹き矢なのか?石でも投げたほうが強いのでは?」などストーリー上・設定上の疑問点も多々あります。

 まあ、そこはアンドーの記憶の世界なので正確な現実を現してはいない、ということなのかもしれませんが・・・。

 

・一方で、アンドーを追いかける真面目で無能そうな男、シリル・カーンとその部下のへっぽこオジサンたちの周りの描写は、コミカルでもありつつ悲劇的でもあり、非常に引き込まれました。三話までのエピソードは、アンドーが反乱軍に合流するきっかけの物語でもありますが、シリル・カーンが大敗北し彼の心に歪んだ正義の火が灯る物語としての印象も強く持ちました。ポスターでもど真ん中の位置にいますし、キャプテン・ファズマ現象が起こらなければ、きっと大活躍してくれるに違いありません。敵側が魅力的な物語は面白くなるに決まっているので、ここは本当に期待しています。

 個人的には、シリル・カーンは非常に正義感が強く真面目な人間であるため、「反乱者たち」の某キャラクターのように、最終的には反乱軍側に協力してくれるキャラクターになるのではないか、と予想しています。

・本作は時系列的に「反乱者たち」のあとになりますが、自分は「反乱者たち」が大好きなので、アンドーの全24話のどこかで、(エズラは無理にしても)ヘラやサビーヌ、ゼブやチョッパーが登場してくれたら嬉しいな、と実写での彼らの登場を期待しています。(話はそれますが、反乱者たち関連のグッズが全然手に入らず困っています。どこかにいいお店はないでしょうか)。

 

 (高橋ヨシキさんのYouTubeでメールを読んでいただきました。ありがとうございます。)

 

www.youtube.com

 

 

『偶然と想像』

 鑑賞前の「想像」

 「偶然」とはなんだろうか。

 都合のいい「偶然」、悪い「偶然」。「偶然」は、コントロールできない。些細な「偶然」、重大な「偶然」。「偶然」は、予測ができない。

 自分が生まれたことも「偶然」であれば、人類や生命そのものの誕生も「偶然」。宝くじに当たる幸運も「偶然」、突然雷に打たれて死ぬ悲運も「偶然」。

 「偶然」は時に不可逆的に、我々の運命を規定する。

 統計学が扱う不確実性とは未来のことを指しているが、「偶然」とはすでに起こった過去のことを示すのが一般的だろう。

 

 「想像」とはなんだろうか。

 それは人間が頭や心で何かを思い描くことである。「想像」もまた「偶然」と同じように我々のコントロールを超えて時に暴走しうる存在である。

 しかし人間が最終的にコントロールできうる唯一のものも、自身の「想像」である。「想像」は我々を支配する「偶然」に対する唯一の対抗手段である。

 

 「偶然」の対義語は通常、「必然」という言葉である。しかし本作はタイトルで「偶然」と「想像」を対比させることで「必然」から居場所を奪い、否定する。

 

 本作は三部構成となっており、「偶然」と「想像」に関する羅生門形式での語りを意図している可能性も頭の片隅で想像し、鑑賞したい。

 

作品という「偶然」に対峙して

 本作は全部で7つのエピソードとして構想されたもののうち最初の3つを作品化したものであるという。

 タイトルについて色々考察を巡らせていたことが馬鹿馬鹿しくなるぐらい、本作にはストレートな笑いどころがしっかり用意されているし、肩ひじ張ってみるような作品ではなかった。

 最初のエピソードはタクシーの車内でのガールズトーク長回し会話劇だけでも「あるある話」っぽく楽しいが、社内で古川琴音がひとりになりタクシーの運転手に行先の変更を告げてからの「ないない話」へと発展するドライブのかかり方は凄かった。最後の喫茶店のシーンでの印象的なアップからの展開には驚かされた。

 二つ目のエピソードは単位が取れなかった学生がセフレの同級生に依頼して、自分を留年させた教授にハニートラップを仕掛けるという話。独身の男性のキャラクターであれば、若くて魅力的な女子学生が部屋にやってきて女性の方から積極的に扉を閉めたらそれは・・・という「あるある話」が展開しそうになるところ、この教授がわざわざ扉を開けなおすところから「ないない話」に展開しドライブがかかっていく。

 三つ目のエピソードはなぜか若干のSF設定が字幕で語られた後、仙台の町で高校の同級生と再会して家でお茶をするが、実は人違いで、気が付いてもそのまま流せばいいのだが、あろうことかそれを片方がしっかり口にしてしまうところで「あるある話」から「ないない話」への転換が起こり、それが思わぬ化学反応を起こしていく作りになっている。

 本作は120分の鑑賞時間で、ふつうは1回あれば満足できるような目の覚める場面が3回も出てくる点で非常にお得な作品であり、笑いどころも豊富なので思った以上にエンタメ度の高い作品であった。セリフの読み方については棒読みと感じる部分も多く、それは特に「ないない話」のパートに顕著であるので、おそらく意図的なものである。

 私たちの実人生では、ひとつの偶然からこの作品で描かれるほどの果実を得ることは困難である。が、偶然の何かに出くわしたとき、日常のほうの「あるある話」に戻ろうとするのではなく、想像を働かせ「ないない話」の方に踏み出すことができれば、映画も人生も少し何か違うものにできるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

『キングスマン ファーストエージェント』

 

 面白かったのだが、思っていたのと違った。

 

 本作は現実の第一次世界大戦を題材にしているため当たり前といえばそうなのだが、この映画はキングスマンというシリーズの過去のテイストとはかなり異なっており、リアルな反戦映画に仕上がっている。塹壕から兵士が突撃して全員があっけなく秒殺される描写は乾いた演出で不気味だったし、レイフ・ファインズの息子の上官が目の前で銃殺されるナイトシーンは物凄く臨場感があった。同じく第一次世界大戦を描いた『1917』と比べても遜色ないどころか、同作が疑似ワンカットとロジャー・ディーキンスの撮影により幻想的な仕上がりになっている分、キングスマン ファーストエージェントのほうが臨場感や生々しさという点では勝ってさえいるのである。それほど戦争映画・反戦映画としてのクオリティは高い。

 本作を理解するために予習をするのであれば、過去のキングスマン2作ではなく、『1917』もしくはピーター・ジャクソン監督の『they shall not grow old』を薦めたい。のちの世から見れば悲惨極まりないこの戦争に、レイフ・ファインズの息子はなぜ進んで参加していくのか、そして戦争の実態がどうであったのか、理解が深まることと思う。

 補足として、日本ではあまり有名ではないと思うが、本作には実在したイギリスの軍人のキッチナーという人物が登場する。演じているのがGOTの悪役タイウィン・ラニスターで有名なチャールズ・ダンスなので、キッチナーを悪役と勘違いしてしまったが、この人物はイギリスの英雄であって本作の悪役ではない。それを知ってみると話がより理解しやすいと思う。

 思っていたのと違った点は、荒唐無稽なガジェットや悪趣味なギャグといった前2作のチャーミングな部分が殆どなかったことだ。ラスプーチンとの戦闘の場面はそれに近かったのだがそれも中盤で終わってしまうため、キングスマンのテンションで劇場に足を運んだ割になんだか重いものを見せられたな、という印象はどうして残った。

 エンタメとして致命的だなと思ったのはラスプーチンレーニンヒトラーを操る黒幕に大物感が全く感じられなかったこと。スパイ映画との比較でいえば007のスペクターは手下が全員無名だから成り立つが、本作の場合は世界史の超有名どころが手下なので、黒幕の見せ方に工夫が必要だったと思う。なんなら正体を見せないとか、だれが黒幕なのか分からない名探偵コナン方式でもよかったはずである。

 ラストにヒトラーが登場し続編を匂わせていたが、題材的にいよいよシリアスにならざるを得ず、果たしてこのシリーズでそれをやる意味があるのかという疑問はやはりぬぐえない。

 

 

【ネタバレ有】『テネット』徹底考察【一万字超】

クリストファー・ノーラン監督

『テネット』

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 筆者は本作を 

  •  初回を通常のIMAX
  •  2回目にIMAX レーザーGTで

  合計2回鑑賞し、パンフレットも購入して読みました。

 感想としては、かなり満足できました。

 素晴らしい作品だったと思います。

 

 以下では大小様々な論点を思いつくままに論じています。

 盛大なネタバレ記事です。

未見の方は鑑賞後にご覧くださいませ。

 目次です。

SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS

 パンフレットに載っていた情報なのですが、これはラテン語の有名な回文で「農夫のアレポは馬鋤きを引いて仕事をする」という意味だそうです。

 SATORは敵の名前、アレポはゴヤの贋作を描いた画家、TENETは作品名、OPERAは本作の最初のシーン、ROTASは絵を保管している怪しげな会社の名前、とこの回文の全ての要素が本作に散りばめられています。

 ちなみに途中まで本作のタイトルは「メリーゴーランド」だったそうで、この回文を見つけた人は本当に偉い。

 

 キエフ国立オペラ劇場

 冒頭のシーン。いきなりの急展開でどんどん引き込まれていく最高のオープニングシーンだったと思います。

臨場感の演出

 オーケストラの演奏前に楽器を鳴らすシーンで、映画の観客にも

これから生演奏が始まるんだ

 という臨場感を体感レベルで植え付けることに成功しています。仮にこれが演奏の途中のシーンから始まっていたらどうでしょうか。おそらく、ここまでの臨場感は出なかったでしょう。

ワッペン問題

 そしてテロリストが突入する。

 特殊部隊があり得ない早さで到着する。これは事前に知っていたに違いない。

 「アメリカ人を起こせ」

 主人公の顔。寝てたの?   まあいいや。

 そしてやってきたキエフの部隊の種類を確認してそれっぽいワッペンをつける。

 え、それだけ?

 なんとなくの知識ですけど、部隊によって制服、武器、靴、その他装備、諸々違うと思うんですけど。ワッペンをつけるだけで偽装できちゃうという設定。気にしないことにしました。

 

本気の居眠り

 何やらガスを劇場内に送る特殊部隊。劇場内の観客はどんどん眠りに落ちていきます。

 このシーンは「かなりの長い時間、これだけの人数が頑張って居眠りしていたんだな」と思うとエキストラの人たちの大変さが忍ばれる。だって、役者たちが頑張ってアクションしても、観客のエキストラが一人でもくしゃみとかしようものなら、NGになっちゃう訳じゃないですか。デンゼル・ワシントンの息子とロバート・パティンソンのベストアクトも台無しにしてしまうかもしれないというプレッシャー。これは本当に大変だったはず。トイレもいけないし。

 と同時に、これだけの大人数が本気の居眠りを決め込んでいる所はやはり「めちゃくちゃ滑稽だな」とも思ってしまったのもまた確かではあるのですが・・・。

 

早速、理解不能

 主人公(この時点ではCIAのスパイ)は潜入しているっぽい別のスパイ救出と、プルトニウムの奪還のために劇場に来たらしきことが分かります(初見では展開が早すぎて、なんとなくの理解しかできませんでした)。

プルトニウムの外見問題

 クロークに置いてあるプルトニウムを発見する。

 とても違和感のある保管方法と外見ではあるのだが、『ミッション・インポッシブル:フォールアウト』でも同じ違和感を飲み込んだ経験がありここは難なくクリア(画像はミッション・インポッシブルのもの)。

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爆弾を見落とさない主人公

 特殊部隊はテロリストを退治すると同時に劇場自体を観客もろとも爆破しようと時限爆弾をセットしている(これも初見のときは特殊部隊にテロリストが混じっているのかな?と勘違いしてました)。

 これに気がついた主人公はあの広い劇場全体にある時限爆弾を一つも見落とさず、全て回収しボストンバッグに入れるという神業を発揮します。これ超能力に近く、テネットと同時にそっちの謎も解明して欲しい。

伏線を見落とす筆者

 爆弾を回収しているところで本当の特殊部隊にバレ、殺されそうになりますが、ギリギリのところで謎の男に助けられる。

 謎の男(実はニール)のカバンには(分かってみれば)意味ありげなお守りのようなものがぶら下がっているのですが、初見時には消化不良の情報がすでに脳内山積みで、頭はパンク状態。完全に見落としていました。

 

 無事にミッションが終わったと思ったらなぜか失敗しており、拷問にかけられる主人公。なぜ失敗したのかは二回観た今でも分かっていません(お願い:分かる方、コメント欄で教えてください・・・。)

  敵のスキをついて自殺用のカプセルを噛む主人公。

 

 TENET 

 

 タイトルがドーン。

  

トロンヘイム海上

 死んだかと思った主人公が目を覚ます。

テスト

 知らないおじさんが登場。「あれはテストだった」と言う。

 どこからどこまでをテストだと言っているのか。拷問だけ?それともテロ全体?これも、いまだによく分からないままです。

風車

 大きな海上風車が映される。

 これは・・・ノーランが撮りたくて撮ったヤツだな!話の筋とは関係なさそうだな!

 と思いテンションが上がる。スクリーンが大きいことの利点を最大限に引き出す映像だ。

活かされない超能力描写

 テネットの秘密を聞かされる主人公。懸垂をする主人公。

 科学者の元に行き、詳しい説明を聞きます。時間の逆行。テネットの目的は第三次世界大戦を防ぐこと。核の脅威よりさらに恐ろしいことが起こる可能性があると。

 壁から飛んできてトリガーに収まったり、主人公の掌に吸い込まれる銃弾の描写。彼が「時間の逆行をイメージする」ことによってテネットを操る超能力的な描写はかっこいい!ですが、その後の展開では全く出てこないのはちょっと残念。

考えて

 さて、ここで科学者は

「考えるな、感じろ」

と言う。

 

ごもっともな気もするが

「それが科学者の言うことか?」

と少し思う。

「弾丸の成分を調べれば、どこで作られたものか分かる」

と主人公に指摘されて気がつく科学者。

やっぱりちょっと大丈夫か、この人。それは科学者が気がつくべきところではないのか。思った通り、考えることは大事だった。

 以上は冗談で、この「考えるな、感じろ」は監督から観客へのメッセージである。

 

ムンバイ・ロンドン

ややこしや

 この辺からドンドン、話がややこしくなっていく。

 

 サンジェイ・シンと言う武器商人に会う

実は黒幕は妻のプリヤで

実は黒幕はセイターって言うロシアの武器商人で

→セイターにあうために妻のキャットに接近

→キャットの協力を得るために美術品を盗む必要

→盗むためにオスロ

 

ここまで話を複雑にする必要あります?

 

 と言いたくなるような展開。

 

 バンジージャンプのアクションは良かったです。予告編を観た段階では、時間の逆回転をしているのかと思っていたら、実は普通に順行だったと言う。メイキングを見ると、これも実際にスタントをやっていて、なかなかの迫力でした。

 

オスロ空港

 オスロ空港は「フリーポート」となっており、美術品や骨董品が無課税でトランジットできると言う。実際にそんなものが存在するのかは知らないのですが、この部分はなんだか日産の○ルロス・ゴーンさんの逃亡劇を思い出すなどしました。

目的を忘れる

 ニールを空港に下見に行かせた主人公は「防火設備をよく確認するように」と指示する。

 しっかり確認するニール。防火設備は特殊なガスが室内に充満する仕組みになっており、10秒以内に脱出しないと人間は窒息してしまうことが分かった。なるほど、これはサスペンスを生み出す要素になりそうだ。

 ところで、目的はゴヤの贋作を盗み出すことのはずだが、それの保管場所は全く調べていない。

 

飛行機大爆破

 ゴヤの贋作を盗むために警備の目を誤魔化すために(また「ために」)、飛行機をジャックして建物に突っ込ませるという(飛行機だけに)発想の飛躍にもほどがある作戦を実行する。

 さらに、監視の目を欺くために金塊をばら撒くと言う。「誰も飛行機のことは気にしないよ」とのこと。そんな馬鹿なとは思いつつ、ここまでめちゃくちゃな方向にしっかりと振り切った決断をしたのは本当に最高です。

 このシーンは実際に中古の大型機を買ってきて撮影されているらしく、迫力がすごい。ゆっくりと飛行機が滑走する下で自動車がボコボコになっていくのも良かった〜。

 

異次元の格闘シーン

 無事に飛行機が建物に突っ込み、警報装置と消火設備が作動。

 客をおいて真っ先に職員が逃げ、しめしめという顔をした主人公とニール。あちこちのドアをピッキングしていくが、やはりゴヤの贋作を探しているようには見えない。

 そうこうしているうちに、回転扉に出くわし、奇妙な動きをする男との格闘に突入。この格闘シーンはどうやって撮ったのか気になる、全く観たことがない素晴らしいシーンでした。これは元プロのアメフト選手でもある主演のジョン・デイヴィッド・ワシントンの抜群の身体能力によるところも大きいはずです(他のキャラクターではここまでの格闘シーンはありません)。

 さて、ここでニールは戦っている相手の顔を見て戦うのをやめ、さらに主人公が相手を殺そうとするのを止めます。ここでおそらく多くの観客が「あ、そういうことね」となんとなく重要な結末に気がつくことになるのですが、この作品はたとえそれが分かっても、それが明かされるのちの映像体験が物凄いから全く問題ないところが素晴らしいです。

 

アマルフィ

 あのアマルフィです。織田裕二が出てきてTimeToSayGoodbyeが聞こえてきそうです。

 ゴヤの贋作の奪還に失敗した(そもそも奪還する気があったのか怪しい)主人公は、悪びれずに再びキャットの前に姿を現します。こいつは・・・サイコパス・・・。

 なんやかんやでセイターの夕食に招待されるが、すぐに帰る主人公。セーリングセーリングの場面は後述)で殺されかけたセイターを助け、警察が保管しているプルトニウムの強奪へ向かう。

 

タリン

超絶技巧のカー・アクション

 装甲車を襲うシーンとカーチェイスのため、3週間の通行止めを行って撮影されたシーンは圧巻。

 装甲車と前後の車を豪快に破壊して行われる強奪シーンは実物にこだわるクリストファー・ノーランの真骨頂。実際にあれだけの台数の車を走らせ、役者にその上で実際に事故なく演技をさせるための準備と計画の大変さを考えるだけでも気が遠くなりそうだ。

 奪ったあとのカーチェイスシーンは、逆走する車に襲われるという、おそらくまだ誰も見たことのないシーンだ。撮影は実際にバックで車を走らせているのだろうが、ドライバーもこんな運転は初めてだったに違いない。

 カメラも『フォードVSフェラーリ』のような車体のしたの方から撮影するカットが挟まれ、スピード感と臨場感を掻き立てている。非常に豪華である。

手品師

 さて、強奪に成功したプルトニウムだが、キャットを人質にしたセイターに奪われてしまう・・・と思ったらオレンジの箱を投げる瞬間、あいだに割り込んできたもう一台の車にプルトニウム本体を投げ入れている。まるで手品だ。画面にもチラッとだけ映るのだが、これは初見時には全く気がつかなかった。いくらなんでも説明不足すぎやしないか。

 さてキャットを助けたあと、プルトニウムの箱が空だったことに激怒したセイターに、捕らえられる主人公とキャット(初見時は怒っている理由が分からず全くの意味不明だった。なお、ここが分からないとこの後の展開も芋づる式に意味不明になっていったことは今でもない)。

 キャットが撃たれる。

 このシーンは非常に緊張感があった。壁に残る弾痕が震え、逆再生される音声が時間差で順行のこちらに聞こえてくる。よくこんなことを思いつくな、と驚く。

 そこで助けが来る。ニールも一緒だ。もっと早くみんなを連れてくれば良かったのでは?と思わなくもない。

 キャットを助けるには時間を逆行して治療をしなければならない。主人公たちは逆行世界に向かう。

 

オスロ

スーパーボール

 主人公は先ほどのカーチェイスで別の車に放り込んだプルトニウムを回収するため、逆行する世界の外に向かう。

 しかし、驚いたことにプルトニウムはせっかく放り込んだ車の中でピョンピョンと跳ね回り、最終的にはセイターの車の中に飛んでいってしまっていた・・・。

 初見時にはそもそもの前提が分かっていなかったので意味不明でした(「チームプレイか」の意味も???でした)。

 しかし分かったら分かったで、「そんなのアリかよ」という。どんな偶然なんだ。プルトニウムって見た感じ結構重そうだしあんなに車内でバウンドする?スーパーボールかよ!

 

氷と炎の歌

 横転した車に火を付けられて、火達磨になった主人公と車は凍りつきます。

 確かに事前にそういう設定も説明されていましたが、どう考えてもおかしい。時間が逆になっても燃える前の温度に戻るだけだし、燃焼という現象がなければ、逆行世界の車のエンジンはどうやって動いてるんだ。

 

今、ふたたびの空港へ

 オスロの空港から再び順行の世界に戻ろうとする。なぜわざわざそこを選ぶ必要があったのかは、まだ理解できていません(お願い:分かる方はコメント欄で教えていただけると助かります)。  

 そこで今度は過去の自分との戦闘が始まる。さっき見たシーンのはずだが、逆行世界から見るだけでとても見応えのあるシーンに仕上がっている。

 

マグネヴァイキング

アルゴリズム

 実はプルトニウムの正体は「アルゴリズム」という未来人が発明した機械を9つに分割したものの一つだった。アルゴリズムが全て揃い、発動されると世界全体の時間が逆行し、順行世界は一瞬にして消滅するという。

 そう。この映画では、プルトニウムプルトニウムではなく、アルゴリズムアルゴリズムじゃないのである。

 

セイターの企み

 さて、キャットは助かったが、アルゴリズムは全てセイターの手に渡った。

 セイターは自分の脈拍とアルゴリズムの起爆を同期しており、彼が死ねばアルゴリズムが起動し世界が滅ぶ。さらに彼は、末期の膵臓癌を患っており余命幾ばくもなく

「どうせ死ぬなら自殺して同時に一緒世界を滅ぼしてしまおう」

としていることが分かる。

 なんとセカイ系でサノスなおじさんなんだろう。困った。

セイターの過去 

 セイターはスタルスク12という地図から消された街の出身。冷戦時代の若き日のセイターは、そこで原子力施設の事故の後処理を行っている際に、未来人が現代に送ったタイムカプセルを発見。そこには未来の自分が署名したビジネスの契約書や金塊が入っていた。以後、未来人から金塊と未来の情報の提供を受けてきたことがセイターの成功の理由だったのだ。

【考察】未来人はなぜセイターを選んだのか

 おそらく未来人は「成功に貪欲であり・ちょうどいい頃合いに病気にかかり・自殺した人物」としてセイターを選んでいる。セイター自身は未来人と関わりを続けたことが放射線被曝と癌という結果につながったと思っているが、未来人が彼を選んだことを考えれば、それがなかったとしてもセイターは遅かれ早かれ病気になり自殺を選んでいた、と考えられる。それが彼の運命だったのだ。

祖父のパラドックス

 祖父のパラドックスとは、祖先を殺しても子孫である未来人は無傷である、というパラドックス(矛盾)だ。

 これに関しては、未来人の中でもニールやアイブスは祖父のパラドックスに関し、過去を滅ぼしたら未来も道連れであると考えている。筆者もそう考えている。パラドックス(矛盾)を信じるのは愚かだし、現実逃避だ。

 一方でニールの口から語られるように、未来人の中には、先祖を殺しても自分たちは無傷だ、と考える人間がいる。「矛盾しているが、そう信じているのだから仕方ない」のだという。そうした考えを持つ未来人がセイターを通じて過去に隠されたアルゴリズムを起動させ、世界の時間を逆行させ、過去を滅ぼそうとしているのだ。

【考察】第三次世界大戦の正体

 つまり『テネット』の中で語られる第三次世界大戦とは、

  • 世界全体の時間を逆行させて過去が滅べば未来も道連れで滅ぶと考える反・祖父のパラドックス
  • 世界全体の時間を逆行させることで未来の問題(環境問題など)が解決できると考える祖父のパラドックス

 の二つの対立するイデオロギーの間の戦いなのである。

 これは現在のアメリカで言えば、

などを象徴していると言って良い。

そして、理性や知性の側に立つことがTENET。

スタルクス12

 話を先に進めます。

超リアルなゲーム感覚

 最後のスタルクス12での戦いのシーンは本当に圧巻。このシーンは一番、IMAXレーザーGTの威力が発揮されるシーンでもあった。

 画面の情報はめちゃくちゃ多い。

  • 敵/味方の軸と順行/逆行の軸で分かれ
  • ニールは途中で順行と逆行を行ったり来たりするし
  • 更にベトナムでのセイターとキャットの騙し合いのシーンがカットバックされる

 以上により複雑極まりないシーンとなっている。しかし、二度目に見たときはしっかり情報も整理されて物凄い没入感を味わうことができた。感覚としては複雑なVR戦争ゲームの中に放り込まれたようだった。『1917』よりもこっちの方がより臨場感があったように思う。本作のベストシーンを上げるとすれば、この戦闘を推したい。

 

可哀想な建物

 パンフレットにも乗っているのだが、復活した建物がすぐに破壊されるシーンがある。これは少し笑った。

 怖かったのは、瓦礫が逆行して建物に戻る時に人が巻き込まれてしまうシーン。これは本当に恐ろしく、ホラー的だった。

 

ニール

 この戦いに勝利できたのは、なんと言ってもニールのおかげだ。

 そして明かされる秘密。

 このあたりは、ちょっと予想の範囲ではあったので驚きはしなかったが、なんとも切ない終わり方だった。2回目に見たときは分かれのシーンで鳥肌が立った。

 

The Protagonist

 主人公自身がテネットの黒幕だったことが明かされる。

 展開としてはターミネーターなどを見慣れた観客にとってはあまり驚きではなかったと思う。

 本作の肝はなんと言ってもIMAXと圧倒的な物量、そしてクリストファー・ノーランの狂気による映像体験。

 

*************************** 

ここまでで、ストーリーに沿った話は以上です。

ここからは、別の切り口でいくつか余談を。

セイター(ケネス・ブラナー)のロシア訛り英語問題

 今回の悪役(antagonist)はロシア出身の武器商人セイター。演じるのはイギリス人俳優のケネス・ブラナー

 

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 彼は自身が監督・主演の『オリエント急行殺人事件』『ナイル殺人事件』(今年公開)ではフランス語訛りの英語でエルキュール・ポワロを演じていました。

 本作ではロシア訛りの英語を喋っており、英語ネイティブでない筆者にはそれっぽく聞こえました。

 ただ、ある重要な場面で、素人の耳にも明らかに訛りがない普通の英語に戻っちゃってるように感じたところが有りました。

 問題の場面は、妻のキャッツにキレて

 「俺の本性は、虎だ!」とセイターが新海誠監督もびっくりの中二病発言&大激怒をするところ。

 訛りが消しとんで普通のイギリス人の英語っぽく聞こえてしまい、「俺の本性は、イギリス人俳優だ!」と別の本性が垣間見えてしまっているような気がしたのでした。

キャット(エリザベス・デビッキ)の性格

 本作のヒロインである彼女。

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 彼女はかなり後先考えずに衝動的に行動する、めちゃくちゃヤバイ奴。

 最初に「は?」と思ったのは、セーリングのシーン。いきなり

 「地獄に堕ちろ!」

 と叫んでセイターを海に突き落とすキャット。

 急にどうした。

 しかも、彼を救出した主人公に対して

 「なんで助けたの」

 って詰め寄るキャット。

 いやいやいやいや隣にもヨットがあって人が乗っているような沢山の人が観ている中で人が海に突き落とされたら、普通はとりあえず助けようとするっしょ・・・。

 

 キャットがセイターを海に突き落とす→しかし、みんな知らん顔。

 

 ってそんな訳あるかい!

 殺したいなら普通は他の人の目が無い場所でこっそりやるもんちゃうんか。

 

 そして終盤ですよ。

 沢山の大人が命がけのミッションをやって、なんとか世界を破滅から救おうと頑張っているのに「なんかムカついたから」ぐらいの理由であっさり引き金をひくキャット。 

 お前!息子守りたいんちゃうんか!

 大人なんだから作戦のルール守らんかい!世界破滅したらどうするつもりだったんだ・・・。

 

 他にもですね、なぜセイターみたいな、いかにもヤバそうな奴と結婚したのかも謎。確かにお金持ちなんだろうけど、キャット自身も良いとこのお嬢様みたいじゃないですか。だから金のために結婚って訳でもなさそうですし。あり得るとしたら親のビジネスのための政略結婚・・・?

 

主人公のすべり芸

 主人公は、たまに緩いジョークを口にします。

 

 「どうやって死にたい?」「老衰」

 

 とか

 

 「喉を切ってキンタマを詰め込む」「面倒だな」

 

 とか

 

 「次は頭を打つ」キンタマは?」

 

 とか

 *(他にもあった。思い出したらここは追記します)

 。

 これらのジョークに対し、周りの人たちはクスリともしない。

 編集での間もほとんどなく監督のクリストファー・ノーランにすら無視されている感じがしてなんだか不憫でした。 

ゴヤの贋作の謎

 細かいことですが、ゴヤの贋作について。

 まず、なぜわざわざ贋作を2つ作ったヤツを使ってセイターを嵌めようと思ったのか。「オリジナルと贋作が一つずつ」の場合より「贋作が二つ」あったら嘘が発覚する可能性は当然高くなります。なんでわざわざそれを選んだのか。ちょっとお馬鹿さんなのか。結局バレてるし。画家のアレポはどうなったんでしょうか。キャットのセリフから察するに、すでに殺されているか、重傷を負っているのでしょうが・・・。

 次に、もう贋作がバレていて画家も無事ではないのに、そんなことは全く知らずに「良いものがあるぜ」とドヤ顔でもう一つの贋作を渡してきたマイケル・クロズビー(マイケル・ケイン)。めっちゃ無能。

 

流行り物をイジる

 アメリカで人気があるんだろうな〜と思われるものをイジる展開が何箇所かあります。多分クリストファー・ノーランが個人的に「気に入らない」って思っているんじゃないでしょうか。

ベジタリアン

 飛行機乗っ取りのシーンで「機内食、全部ベジタリアンかよ、ゲー。」みたいな感じで出てきます。その前のシーンで貨物用の飛行機だって言ってたはずなのになぜか登場する大量の機内食

ヨガ

 美術品奪還のシーンで、主人公がやたら深呼吸しているのに不審な目を向ける倉庫職員に対し、ニールが「ヨガだよ」と言います。馬鹿にしてんのか。

ブルックス・ブラザーズ

 主人公が着ているスーツを、前述の役立たずクロズビーおじいちゃんが真正面からこき下ろします。良いじゃん、ブルックスブラザース。 

流石にそれは(多分)ない:ニール=マックス説

 ネット上のいくつかの記事に

「ニールはマックスなのではないか」

 という深読み記事が出ていますが、個人的にはないと思います。

 理由は、

  • もしそうなら、例のお守りをマックスが身につけているシーンが入るはずだが、それがない
  • ニールは主人公と「数年後に」”最初の”出会いをするので、年齢的におかしい

 以上の二点。

 ただ、若干捨てきれない点もあります。例えばあのお守りが、実はベトナムのお土産だった、とかそういう事情が出てきたらそれもありえるかな、という。ただ現時点では可能性は薄いと思います。 

物理学の予習は必要か

 要らないです。

 エントロピーとか、ウニャウニャといろいろ説明(というか煙に巻くために)が出てきますが、理解しようと思っても無駄しなくても話の展開を追うことになんの問題もないです。

 なんとなく「時間が逆回転するのね」と分かっていれば大丈夫です。

 作中でも「考えるな、感じろ」ってブルース・リー女性科学者の方が断言していますので、その通りで良いでしょう。

 細かい科学の解説がどうしても知りたい方は、パンフレットに解説が有り、また以下のような記事もあるので参考にしても良いと思います。

 繰り返しますが、別に理解しなくても映画を楽しむことには全く影響ないです。

 

IMAXレーザーGTで観た方が良い?

 可能ならそうした方が良いと思いました。

 筆者は1回目は通常のIMAX、2回目にIMAXレーザーGTで観ました。

 IMAXレーザーGTは通常のIMAXより画面の大きさがこれだけ違います。

f:id:FN2199_traitor:20200919133909j:plain

 これだけ違うと、アクションシーンの迫力や没入感にはっきりとした差が生まれます。

 もし2回以上見るのであれば、2回目以降、ストーリーの理解が進んでいる状況でIMAXレーザーGTにすると、画面に集中できる分、満足度が高いかもしれません。

 

とりあえず以上です。

初の10,000字超え記事となりました。

最後まで読んでくださったみなさん、ありがとうございました!

 

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【ネタバレなし】『テネット』〜2020年最高のアクション映画と映画監督クリストファー・ノーランの軌跡を辿る〜

テネット

 クリストファー・ノーラン監督最新作。

予告編とあらすじ


Tenet Final Trailer (2020) | Movieclips Trailers

ダークナイト」3部作や「インセプション」「インターステラー」など数々の話題作を送り出してきた鬼才クリストファー・ノーラン監督によるオリジナル脚本のアクションサスペンス超大作。

「現在から未来に進む“時間のルール”から脱出する」というミッションを課せられた主人公が、第3次世界大戦に伴う人類滅亡の危機に立ち向かう姿を描く。

主演は名優デンゼル・ワシントンの息子で、スパイク・リー監督がアカデミー脚色賞を受賞した「ブラック・クランズマン」で映画初主演を務めたジョン・デビッド・ワシントン。共演はロバート・パティンソンエリザベス・デビッキアーロン・テイラー=ジョンソンのほか、「ダンケルク」に続いてノーラン作品に参加となったケネス・ブラナー、そしてノーラン作品に欠かせないマイケル・ケインら。

撮影のホイテ・バン・ホイテマ、美術のネイサン・クローリーなど、スタッフも過去にノーラン作品に参加してきた実力派が集い、音楽は「ブラックパンサー」でアカデミー賞を受賞したルドウィグ・ゴランソンがノーラン作品に初参加。

2020年製作/150分/G/アメリ
原題:Tenet
配給:ワーナー・ブラザース映画

(映画.comより引用)

 監督クリストファー・ノーラン

 本作の監督はクリストファー・ノーラン

f:id:FN2199_traitor:20200916115716j:plain

 

 彼の作風はざっくりいうとこんな感じです。

作風1:時間操作

 彼の長編デビュー作『フォロウィング』では、時制を前後する編集で独特のサスペンスを生み出しました。

 この時間操作の手法はのちの彼の作品の多くに登場する一つのトレードマークとなりました。

tomomachi.stores.jp

 例えば『インセプション』では

 現実と夢、そのまた夢の中で時間の進み方が違う

 という設定でサスペンスを生み出していました。

(『インセプション』はAmazonPrimeビデオで見ることができます!)

www.amazon.co.jp

 また『ダンケルク』では

 地上の1週間、船の1日、飛行機の2時間とそれぞれ全く違う時間の流れをまるで同時進行かのように描く

 というすごい時間操作を行っています。

 (『ダンケルク』は無料ではないですがAmazonPrimeビデオでレンタル視聴できます)

www.amazon.co.jp

 このように、時間操作は彼のオハコなのです。

 なお、これはTBSラジオ「たまむすび」で映画評論家の町山智浩さんが語っていたことなのですが、

 クリストファー・ノーラン監督はどんな小説でも結末の部分から読むのだそうです。

 そうすることでどんな作品でもミステリーとして楽しめるから、という理由で・・・。

作風2:リアル・ダーク・シリアス路線

 彼の代表作の『バットマン・ビギンズ』『ダークナイト』『ダークナイトライジング』、いわゆるダークナイト三部作。

 アメコミ映画という子供向けと思われていたジャンルを徹底的にリアルに・ダークに・シリアスに描くことでアメコミ映画を大人向けのエンタメに昇華させ、のちのアベンジャーズ・シリーズなどにも大きな影響を与えています。

 


ダークナイト ジョーカー

  (ダークナイト三部作もAmazonPrimeビデオで観られます!)

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 そのシリアスさ・ダークさ故に彼の作品は一見、深淵な、哲学的な映画に見えます。

 しかし彼の作品は、初めて見ている最中は気にならなくても、後から考えると設定と矛盾しているようなことが良くあります。これは監督本人たちもおそらく気がついていると思います。それでもその矛盾をそのままにしておくのは、何故なのでしょうか。

 それは、後から考えないと分からないような矛盾は映画の鑑賞体験の妨げにはならないからです。そこは割り切って目をつぶり、ストレートなエンタメ性を優先するべきだと考えているのです。映画のシリアスでダークなルックに引っ張られがちですが、実はド直球のエンタメ一直線作品と捉えるのがいいと個人的には思っています。

 さて予告編を見ると『テネット』も深刻そうな感じを醸し出していますが、おそらく細かい理屈は気にしても無駄なタイプの荒唐無稽アクションだと思うので、肩の力を抜いて気楽に楽しみたいと思います。

作風3:本物志向(CG大嫌い)

 『テネット』の一つ前の映画『ダンケルク』では、本物の戦闘機を実際に借りてきて撮影し、遠くの兵士の影は段ボールで作ったハリボテの兵士をわざわざ撮るなど、できるだけCGを使わないこだわりでも有名な監督です。

www.cinematoday.jp

tomomachi.stores.jp

  本物にこだわるあまり、実は彼の作品には謎の倒錯も生まれています。例えば『ダンケルク』。史実では何百機も飛んでいた戦闘機の実物3機しか入手できなかったため、史実には目をつぶってその3機しか登場させないという決断をしています。

 史実に忠実なことよりも、映画の作品の中でのリアルさが担保できていればいいタイプなんだと思います。

テネットの見所予想

 ここからは、筆者が本作を見る前に期待している点を挙げて行きます。

時間操作術の最新形が見られる

 本作は時間を逆行する能力が物語の鍵になって来る模様。彼の過去作は様々なタイプの時間操作を導入し観客を楽しませてくれましたが、その最新形が見られるというだけでも非常に楽しみです。

アクション

 実はクリストファー・ノーラン監督の欠点として「アクションの撮り方があまり上手くない」というのがありました。しかし今回はアクションがどうやらいいらしい。理由はアクション専門のプロ集団が『テネット』のアクションに関わっているから、とのことでさらに期待が高まります。


いま話題の映画ニュースについて語る | ノーラン監督の割に格闘いいと思ったら、そーいうことね!

本物の映像

 監督の本物志向は健在で、本作ではジャンボジェットも豪快に建物にぶつけて破壊しています。劇場の大きなスクリーンで早く見たい!

 

 

 

 

 

さて

 

 

 

警告

 

この後は感想になります!!具体的なネタバレはしていませんが、何も情報を入れたくない方は鑑賞後にお読みください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

感想(ネタバレなし)

 <1回目の鑑賞時 通常のIMAX

 アクション最高なのでなんだか面白い!

 

 理解は・・・途中で諦めた。

 意味わかんね。なんでそうなる?

 

 パンフレット購入。

 

 あれそういうこと?え?あ、そうなの?ん?それもおかしくね?

 

 

 <2回目の鑑賞時 IMAXレーザーGT>

 

 初回に見落としていた諸々の理解が進む!

 楽しい!

 アクションにも更に集中できる!

 楽しい!

 IMAX GTの超巨大スクリーン最高!

 楽しい!

 

 もはや感想とも言えないレベルになってしまいました。

ネタバレありでいろいろ語りたいことが出てきたので、別途ネタバレ有りの記事も書きます。

 

 最後まで読んでいただきありがとうございました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テック企業からの防衛術 : 映画『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』

監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影

 

 この記事ではNetflixオリジナルのドキュメンタリー映画の紹介をしています。


The Social Dilemma | Official Trailer | Netflix

 

ざっくりどんな内容なのか

 SNSが個人や社会に及ぼす悪影響について、実際にGoogle,Facebook,Twitter,Instagramなどの内部で実際に働いていた人たちの証言と、再現ドラマを元に警鐘を鳴らす作品です。

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紹介されるSNSの悪影響の例

 本作で紹介されるSNSの悪影響の例のほんの一部を紹介するとこんな感じです。

  • いいね中毒になる
  • メンタルが不安定になり、鬱や自殺が増える(特に若者に多い)
  • SNSでの自分のイメージに合わせ生活をするようようになり、加工された顔写真に合わせて美容整形をする人も
  • SNSアルゴリズムに基づいて、その人の好きそうな情報を表示するようになるため、偏った情報を受け取るようになる
  • 陰謀論を信じる人には別の陰謀論がおすすめされる
  • 社会の二極化が進む

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なぜSNS中毒になってしまうのか

 人間の脳は他者との繋がりや、新しい情報に快感を得るようにできている。これは原始時代から変わっていません。

 テック企業はこれらをうまくコントロールする技術を日々磨いています。最新のテクノロジーに対し、我々の脳は何万年も前から変わらないものを使っているため、人間はわかっていてもどんどん中毒になってしまうのです。

巨万の利益を得るテック企業

 「サービスを利用していて、何も売られていない時、売られているのは自分自身なのだ」という怖い言葉が紹介されますが、テック企業はユーザーのデータを分析して広告主に販売することにより巨万の富を得ていることが紹介されます。

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個人でできる対策

 登場するIT業界のエキスパートたちが後半部分でSNSとの適切な向き合い方をいくつも提案しています。

  • 子供のSNSは高校生になってからにする
  • おすすめ動画は見ないで自分で探す
  • 時間制限・時間の予算を作る

などです。また非常に多くのかたが

  • 自分の子供にはSNSは使わせない

とも断言しています。

 

SNSビッグデータにも規制が必要

 森林の伐採や石油の採掘にも環境保護のための規制が行われているように、デジタル経済の資源の利用にも規制が必要だと本作は語ります。果たしてそれが可能なのかどうか、時間はかかるだろうと予測しています。

感想

 僕はとりあえずスマホからSNSのアプリを削除して見ました。SNSでかなりの時間を費やしてしまうという心当たりのある方には、ぜひおすすめです。

 

 

 

映画『ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金』アメリカン・ドリームのオーバードーズに注意

『ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金』

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 高橋ヨシキさんがNHKラジオの「シネマ・ストリップ」で紹介されていて興味を持った本作。

 

高橋ヨシキのシネマストリップ

高橋ヨシキのシネマストリップ

  • 作者:高橋ヨシキ
  • 発売日: 2017/08/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 まずはあらすじの紹介から。

 

トランスフォーマー」シリーズなどのヒットメーカー、マイケル・ベイ監督が、「テッド」のマーク・ウォールバーグ&「ワイルド・スピード」シリーズのドウェイン・ジョンソン共演で描いたクライムドラマ。

マイアミで暮らすダニエルは、筋トレだけが生きがいの冴えないスポーツジムのトレーナー。そんな自分の人生に嫌気が差したダニエルは、ジムの常連客である裕福なビジネスマンの誘拐を企む。同僚のエイドリアンや前科者のポールらと組んで計画を実行に移し、なんとか大金を奪うことに成功したダニエルだったが、そんな彼らの前に秘密捜査官が現われ……。

2013年製作/129分/アメリ
原題:Pain & Gain

映画.comより

  驚いたのは、この映画が実話であるというところ。

 こんな酷いことはさすがにないだろう・・・と唖然とするような出来事のオンパレードで、もうフィクションだろうと思っていると

 「これでも、まだ実話である」

 という注が付きます。信じられないようなことをする輩がいるものです・・・

 

キャスト

 主演はマーク・ウォールバーグ

 

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 「ザ・ファイター」「テッド」「ディパーテッド」など話題作に多数出演。実は彼は昔は相当なワルだったようで、25回もの逮捕歴があるとか。体もすごくて、筋肉ムキムキです。

 

監督

 監督はマイケル・ベイ。「アルマゲドン」や「トランスフォーマー」などド派手な大作映画を多く監督されている方です。

 最近ではNetflixオリジナルの傑作アクションコメディ『6アンダーグラウンド』を監督されています。

https://www.netflix.com/title/81001887

 要素の多い複雑なド派手アクションをしっかり撮る腕のある監督さんです。

 

感想

 まずはTwitterの短評から。

 

 社会的に成功することや、行動力を過度に重視する自己啓発的なメッセージに乗せられて破滅していく主人公たちが痛々しい。

 これは笑っていいのか・・・?

 

 「Don't be a Don'ter . Do be a Doer!」と唱える自己啓発セミナー講師が出てきて主人公たちに感銘を与えています。今の日本社会でもこういうノリで生きている人がたくさんいるよなあ、と。

 

 そんな「Doer」になって金持ちになるべく、主人公たちは強盗を計画します。

 まっとうなビジネスで稼げよ、と普通は思います。共犯者たちも最初は「正気の沙汰じゃない」と言っていますが、主人公にうまく丸め込まれてしまいます。

 そのようにスタートからおかしいのですが、実行する最初の侵入作戦も、まあ杜撰の極み。計画は「裏口から侵入しよう」レベルでお粗末。下調べもなしにとにかく「実行」する。「Don't be a Don'ter . Do be a Doer!」ですね。案の定、なんの下調べもしていないものだから「やべえ、パーティーやってて人がたくさんいる。撤収!」とすぐに想定外の事態に遭遇し逃げ帰ります。

 

 主人公たちは、ここで立ち止まったり、何かに気がつければまだ良かったと思うんです。

「そもそも成功のために強盗するなんて間違っている」とか、

「しっかり調査と計画をしてから実行しよう」でも。

 しかし、彼らは立ち止まらない、振り返らない。

 「Don't be a Don'ter . Do be a Doer!」

 ですから。

 よくPDCA(計画して、やってみて、振り返って、またやってみよう)と言われますが彼らにはその視点が全くない。

 次々に新しい作戦を、よく考えずに実行しては失敗し、行き当たりばったりな行動を続けて、とんでもない事態に発展していきます。

 

 この映画、

  •  実話ベースの犯罪映画
  •  犯行が素人丸出しで間抜け
  •  主人公たちが「何者かになるために」犯罪に手を染める

 という点では『アメリカン・アニマルズ』に非常によく似ていると思います。

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  • 発売日: 2019/10/25
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  こちらの映画では、うだつの上がらない大学生活を送っていた主人公たちが、貴重な本を大学の図書館から盗み出すという罪を犯します。こちらは半分が再現ドラマで、半分はなんと、実際の犯人たちが顔出しで出演しています。夢に目が眩むあまりに犯した罪と、その大きな代償を今も払い続ける彼らの現在が描かれ、重い後味が残る傑作です。

 

 「成功する」「金持ちになる」「有名になる」

 こうした考えに強く取り憑かれて犯罪に走る、というのは実は『ペイン&ゲイン』の彼らだけに限った話ではないんですね。

 まとめ

 目標を持って努力することは大事だし、

 社会的な成功を目指すのも悪いことではないと思います。

 

 ですが人生の価値を、社会的に成功したかという一点で評価しようとするところまで極端になってしまうと、本作の主人公たちのように(あるいはアメリカン・アニマルズの主人公たちのように)遅かれ早かれ破滅が待っている。

 アメリカン・ドリームのオーバードーズに注意。

 そういうメッセージを投げかける映画だと思いました。

満足度

 5点中3点

 

ありがとうございましたー。ではまた!

 

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  • 作者:高橋ヨシキ
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